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主宰の一頁随想         


虚と実と



  本当に私は出会いに恵まれている・・・、その様に思っている。滝先生、青邨先生、そして能村登四郎先生、そしてその思いは林翔先生へとつながるのである。私はいわゆる「馬酔木」育ちではなかったので正直言って林先生の存在を知らなかった。「沖」に入り、登四郎先生を通じて面識を得たというのが事実なのである。ただお会いしてその人柄に心から傾倒した。林翔と言えば登四郎の学生時代からの親友、生涯の友人「沖」が創刊されてからはその編集長をされていた。この方にもいろいろとお世話になった。何かというとまだ至らない私を起用する、その著書では私の作品を引用して激賞してくれる、どちらかというと消極的な私を人前に押し出して紹介する・・・、それは今考えても不思議なほど有難いことであった。・・・ あれは何かの帰りであった。新幹線の車中の様に記憶している。私を呼ぶので行くと「今瀬さんコンク―ルの文章部門に応募しませんか」というのである。「え、だってもう締め切ったでしょう」、「いや、まだ二、三日は大丈夫だよ」・・・、正確には覚えていないがこのような会話だったと思う。私も応募を考えていて、資料も多少は集めてあった。しかし日頃のルーズさで書き上げるまでに至っていなかったのである。したがって私はそれを承諾した。若いということはいいことだ。私は徹夜をしてその原稿を書き上げ、速達で送った。原稿用紙三十枚ほどのものであった。これが幸いというか、コンクールの一位に入賞したのである。この時のテーマが「現代俳句における虚実の問題」(副題は「芭蕉より受け継ぐもの」)であった。これはいわば私の処女評論とでも言うべきものである。多少自慢話めいて恐縮であるが私はただ林翔に感謝したいだけの思いでこの文章を書いてきた。・・・・・ 私が本当に言いたいのはここからである。資料をまとめながら私は大変なことを
忘れていることに気がついた。それは虚と実の問題である。これは私の生涯のテーマだった筈である。登四郎に会って俳句における虚と実の問題を眼前に提示され、飯島晴子が句集「約束」の跋で「今瀬氏が己の内ににある、゛実゛を簡単に手放さず、よくこれにこらえて゛虚゛を行じる限り゛虚゛もまた大きい様相で現れる・・・」と指摘してくれた虚実の問題、それをすっかり忘れていたのである。その評論の冒頭部分で私が述べていることをここに改めて記して確認をしておきたい。・・ 次のような情景を思ってもらいたい。お正月である。みな寒風の中で凧揚げに興じている。冬独特のどんよりとした、寒風が吹き抜けて行く、しかし凧は力強く揚がっている、あたかもその雲の高さに届くかの様に・・・。その情景にふと変化が生じた。風が余りにも強かったのであろうか、凧の糸が切れてしまったのである。 こうした情景から少なくとも俳句は三つ出来ると思う。一つははっきりとした事実の描写である。それは確かに落ちたという事実である。それは・・・・・・・・・・糸切れて雲より落つるいかのぼり・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
 次に作意を凝らそう、この凧が雲に紛れてしまったら面白いではないか。かくして二番目の句・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・糸切れて雲となりけりいかのぼり・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ができる。作者の「やった」と叫んでほくそ笑む表情が見える様だ。さらにもう一つ出来る。・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・  糸切れて雲ともならずいかのぼり・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 一句目は事実を事実のまま詠んで見事である。二句目の虚もまた面白い、しかし私は三句目の含みをもった一種曖昧な表現も忘れてはいけないのではないか。これがもしかしたら「虚と実の間」と言うことかも知れない。今後はそうした作品も心がけていきたいと思っている。                                    
 

             
今月の句


       果報者


嫌はれてゐるやも知れず日向ぼこ
たてがみを後ろに流し寒波来る
たまきはる命水餅一つきり
燃え盛る榾の崩れて父よ母よ
黄落の眩ししみじみ果報者
あの嶺の飛ばす雪なりあるがまま
着ぶくれてスカイツリーに恥ぢてをり
めくるめく落葉の中の落葉籠
冬田行くみな日本の子供なり
無礼ならむと冬帽子鷲づかみ
手に鶲載るまでの無為願ふなり
嬲られて嬲りて寒き灯台ぞ
黄落のしだいに深き母校なり
鶲との距離を縮めて老いにけり
冬薔薇の白の大輪目に痛し
上野駅寒し置いてけ堀寒し
臍の緒の切れしままなり烏瓜
俳人の多彩に過ぎて烏瓜
臍帯の果てに父母あたたかし
饒舌に疲れてゐたり烏瓜




対岸

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